新海誠監督「ほしのこえ」公開当時のチラシが発掘される(2002年)

ほしのこえ」公開にあたり 新海誠

ミカコやノボルと同じ年齢の頃、空ばかり見上げていたような気がします。おそらくは他の多くの人達と同様に、僕は大人から見れば当たり前で些細な、けれど自身にとっては本当にシリアスな沢山の問題を抱えていました。それは進路や学力の問題であったり、好きな女の子との絶望的な距離のことであったり、レギュラーのとれない部活のことであったりしましたが、あの頃はそういう諸問題を効率的に投げ出すということを知らずに、ただ流れる雲や星空を眺めては「俺のこんな問題は世界の中ではとるに足らない小さなものなんだ」と考えて必死で慰めを得ようとしていました。あの頃のくっきりと際だった風景の輪郭は今でも強く印象に残っています。「広い世界の中では一人きりのような気がする。でも、僕はここにいるんだ」というあの頃の強い想い。「ほしのこえ」には、あの頃の願いを思い切り詰め込みました。


ほしのこえ」は2000年の初夏から会社勤めのかたわらに制作をはじめ、その後1年近くは仕事と平行しての遅々とした制作進行だったのですが、2001年の初夏に思い切って会社を辞め制作に集中できる環境を作り、2002年の年明けに完成にこぎ着けました。脚本・作画・編集などを一人で行った自主制作フルデジタルアニメーションですが、このたびのトリウッド公開は多くの方々のご尽力があってこそです。


天門さんの素晴らしい楽曲がなければ、「ほしのこえ」はもっと散漫な映像になってしまっていたはずです。静寂部分まで曲の一部だと錯覚してしまえるような繊細な曲のおかげで、僕の稚拙なカット割りがどれほど救われたことか。


ミカコ役の声を演じてくれた篠原美香さんは普段は中学校の保健室の先生です。僕の作画のスキルだけではミカコに人格らしきものを感じさせることは不可能でしたので、もし一瞬でもミカコに思い入れをもっていただけたなら、それは全て篠原さんのおかげです(ノボル役は僕自身が演じています。すみません、はい)。


また、武藤寿美さん、鈴木千尋さんが熱演してくださったプロ声優バージョンも存在します。オリジナルのニュアンスを大きく膨らませた素晴らしい演技をしてくださり、作品世界に更に深みを持たせてくださいました(今春発売予定のDVDには両バージョンの音声が収録されます)。主題歌を歌ってくれたLowさんも決してプロではありません。ヴォーカルトレーニングにまで通ってくれた彼女の努力は素晴らしい成果を挙げ、同時に僕自身が映像制作に向かう意欲も高めてくれました。


「援助はするけど口は出さない」的なスタンスで、僕にとっては理想的なスポンサーとなってくださったマンガズーの皆さん。マンガズーの様々なご協力がなければ、「会社を辞めて自主制作に専念する」という行為はもっとずっと困難になっていたはずです。


その他、挙げはじめるとキリがありません。このような小さな自主制作アニメーションの完成・公開にご協力くださった全ての皆様に本当に感謝いたします。


遠い宇宙の遠い星から送られたミカコのメール同様、この作品が誰かの心に届くことを願って止みません。

トリウッドに寄せて 天門

モノを創る衝動。
かすかな自己顕示欲の別な形態として「創作」したいという欲求はおそらく誰にもあるのではないかと思います。しかし、実際問題として「作って(創って)どうするのか」という大命題があります。
少なくとも誰かに評価してもらいたい、というホンネが横たわっているのですが、果たしてどうやって発表するのか…。


現在はインターネットの普及で、自分のサイトに創造したものを設置し、不特定多数の人に向けて発信が可能です。


自分は幸いにして新海監督の知己を得、音楽の出来、不出来は別として、「映像という枠組みの中で音楽を表現する」という自分の切望を現実のものにする事ができました。


「ただ、「映像」の魅力、真骨頂はパソコンのモニターの中のみでは無く、それ以上の大きな画面で観る事にあるのではないかと思います。


「これから映像作品を作ろうという人口が増えるんじゃないか」
というトリウッドさんは貴重な存在であり、一方の新海監督の作品は、CG映像界の牽引役と成り得ます。
新海監督とトリウッドを結びつける接点は、多くの方の創造を刺激し、かつ目標なるという意味合いに在り、非常に重要な点ではないか、と思うのです。