ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2 (講談社現代新書)
一般の小説や純文学とは違って表舞台ではほとんど語られる事のない、もう一つの文学「ライトノベル」「美少女ゲーム」。つまりオタクの文学(?)であるラノベとエロゲからポストモダンな社会での物語の可能性を探ります。
「ゲーム的リアリズムの誕生」概要
大きな物語が衰退した現代では、物語は現実からではなくデータベースから作られる(第1章Aパート)。一般小説や純文学が現実を描く(自然主義的リアリズム)のに対しライトノベルは現実を半分だけ描く(まんが・アニメ的リアリズム)。平凡な学園生活でありながら知り合いには宇宙人、未来人、超能力者がいる…など。日常に混ざった非日常、そんな虚構を通してしか描けない「現実」に純文学とは異なる可能性がある(第1章Bパート)。
物語をパッケージとして一方的に消費する時代から(コンテンツ志向メディア)、二次創作などメタ物語的な想像力を拡散させていく時代へ、さらにネットなどのコミュニケーションから生まれる副産物としての物語(電車男など)を消費する時代へ(第1章Cパート)。
そのように絶えず物語が解体される状況で語られる「物語」とは何なのか、具体的な作品から読み解いていくのが第2章。ゲーム「ひぐらしのなく頃に」「Ever17」「ONE」、ライトノベル「All You Need Is Kill」(桜坂洋)などのネタバレを含みます。共通しているのは、メタ物語的な存在である読者(プレイヤー)をいかにして物語に引き込むか…という視点。
あと付録として「清涼院流水」および「AIR」の批評が収録されています。「AIR」批評は同人誌「美少女ゲームの臨界点」に掲載されていたものですが、未読の方はぜひ(当然かなりネタバレ)。
どちらかと言うとエロゲよりはラノベ重視な感じなので、特にラノベに興味がある人にお勧めです。
「コンテンツの思想」
「ゲーム的リアリズムの誕生」だけを読むとやや物足りない気がすると言うか、ほとんどは大塚英志氏の仕事ではないかとも思えるのですが、同日発売の「コンテンツの思想」と合わせて読むとラノベやアニメなどを巡る状況がより立体的に見えてきます。これは新海誠さんや神山健治氏などアニメ作家やラノベ作家との対談集で、詳しい考察はないものの「漫画やアニメよりもラノベの方がキャラクターの純度が高く、まんが・アニメ的リアリズムはラノベが出てはじめて完成したのではないか」とか「セカイ系や、一部の美少女ゲームが抱える妙な思弁性は村上春樹に起源があるのではないか」などより踏み込んだ発言がされていて非常に面白いです。2冊合計で2000円ちょっとで、どちらもサクサク読めるので合わせて読まれる事をお勧めします。
個人的には『雲の向こう、約束の場所』上映直前の新海氏との対談が載っているのがとても興味深く、新海氏の独特なアニメ制作方法や「天然ではないのに叙情的」な点に触れているなど、新海作品をより深く理解するためのヒントがたくさん散りばめられているように思います。例えば「『ほしのこえ』はアニメと言うよりMADやPCゲームOPのような作られ方をしていた」とか「明確な絵コンテが決まっていないので全く意図を持たせない絵を挿入する事ができる」などなど。実際に新海氏は「風景が欲しいな」と思った時に大量のデジカメ画像の中から選んでいるそうで、文字通りデータベースを参照して作られている事が伺えます。その辺も新海作品の魅力の一つかなと。