森川 嘉一郎『趣都の誕生 ~萌える都市アキハバラ』

趣都の誕生―萌える都市アキハバラ (幻冬舎文庫)
趣都の誕生―萌える都市アキハバラ (幻冬舎文庫)

いつの間にか街全体が巨大な『個室』になっているのを知っていますか?

もっとフザけた軽い本だと思ってた。しかし意外にもかなり面白い。
本書はかなりマジメな都市工学・景観論(&建築論)だ。オタクに限らず建築関係の方は必読だろう。あとは都市とか、日本の将来に多少なりとも興味のある人は。

タイトル通りのアキバ論。日本でも有数の電気街アキバがいかにして萌える都市へと変貌を遂げたのか。

アキハバラ。そこは床広告やビル壁面(もちろん内部も)など、街全体がアニメやギャルゲーで覆い尽くされた所だと言う。あるビルなどは、98年当時はほぼ電器店一色だったのに対し、02年になると半分以上が趣味の店(ゲーム・アニメ・マンガなど)になってしまった。もちろん政治的な力や、特定の企業の力が働いたわけではない。

…一体、何が起きたのか?

一つにはエヴァンゲリオンの影響があると言う。一つには、パソコン好きはまたアニメやギャルゲー好きでもあるからと。…しかし、それだけだろうか?

かつては家電など、アキバは安かった。もちろん今でも安いが、最近では郊外にある量販店も同じくらい安い。家電を買うためにわざわざアキバへ行く必要がなくなり、電気街としてのアキバは空洞化した。

それ以上に3種の神器という言葉が死語と化したように、現在では家電を買うことへの希望がほとんどなくなってしまった。家電を買う事は、もはや未来への希望でも何でもない。かつては家電を買うために秋葉原へ行く事、アキバで買うこと自体が一種のステータスだった。もはや、それはない。家電を買う事に深い意味を見出す事はなくなったのだ。

未来の喪失。

この失われた未来を埋め合わせるものが趣味であり、それによって街は変貌していった。の趣味が先導する街に。例えばアキバの建物には窓が少ない。あっても商品で埋められている場合が多い(不透明な街)。これはビデオで埋められた(オタクの)部屋の延長である、と筆者は言う。これに対し、渋谷ではガラスを多用した透明で開放感のある建物が増えている。

それとは別に、アキバで見られる看板広告やポスターには日本人が多い。そしてネオンも赤と白が多い…。そもそも家電と言えばソニーパナソニックなど国内メーカーだし、アニメだって日本の文化だ(少なくともアキバにあるようなものは)。アキバは国内志向なのだ。これは台場や渋谷が徹底して海外志向なのとは全く異なる。

主導の街(高層ビル群…西新宿)から
主導の街(東急・西武…渋谷、池袋)、そして
主導の街(アキハバラ)へ。

さらに、海外志向から国内志向へ。

…何がイイとか悪いとかは筆者は一言も言ってない。ただ、未来に対する漠然とした不安とか喪失感はアキバだけのものではないと思う。むしろ彼らは敏感にそれを察知しているのではないか。無論アキバみたいな街が好きかと言われたらそうではないけど、渋谷が好きかと言われるとそうでもない。やたら外国に憧れて追い付こうとするよりも国内志向かつ個主導って流れが案外イイかもしれないな、と思う。

…とか言ってるうちにアイフルブロッコリーが提携してしまったわけで、このままだと日本が総アキバ化してしまうのではないか、と未来に更なる不安を抱くのであった、にょ!! どうするにょ!! アイフルにょ!!(…イヤすぎる。)