新ジャンル:「空気系」
樹海エンターテイナーさんが上の2エントリで「空気系」というジャンルを提唱されています。
『よつばと!』『あずまんが大王』『ARIA』『苺ましまろ』『ヨコハマ買い出し紀行』
などがそれに当てはまるそうです。要約すると「ギャグやストーリーよりも世界観や雰囲気の描写を重視した作品」と言えるでしょうか。個人的にはギャグ色の強い『あずまんが大王』と『苺ましまろ』を除外して、『神戸在住』を付け加えたいです。癒し系とは微妙に違うそうなので「ゆったりと時間が流れる作品」とでも言いますか。 で、この中でも特に思い入れの強い『ARIA』を取り上げてみたいと思います。
『ARIA』とは
既に2回TVアニメ化されているので、説明不要なほど有名な作品かも知れません。 一応解説をしておくと、『ARIA』(アリア)とは未来都市ネオ・ヴェネツィアで一人前のウンディーネ(水先案内人:観光客向けのゴンドラ漕ぎ)を目指す少女の物語です。…と、実はこの解説すら建前で、物語はあってないようなもの。描かれるのは水の都ネオ・ヴェネツィアの四季や風景、そして人々の生活。
この物語の主役はやっぱり空と水と光と風。そして移りゆく季節。空の広がりと風の匂いと、そして街の上に積み重ねられた時間。(毎日新聞:マンガ批評)
というのがかなり的確な説明だと思います。
魅力的な世界観
天野こずえ先生の画力や背景のもの凄く丁寧な描き込みもあって、「ネオ・ヴェネツィア」という架空都市は本当に実在するかのようにリアルです。もちろん実在のイタリアの都市、ヴェネツィアがモデルではありますが、背景もその上で動くキャラクターも本当に美しく、1ページ1ページ、1コマ1コマが「アート」であると言っても過言ではないと思います。
「世界観を大事にしたいんです。 世界がうそっこだと必然的にキャラもうそっこぽくなるから」
とご本人が語っておられるように、「水の都」という世界観はARIAの重要な柱の一つなのでしょう。
日常に潜む小さな奇跡
街の風景や自然は「ARIA」の大きな魅力の一つですが、ARIAを読んで心打たれるのはその背景が美しいから…と言うよりも、そこに暮らす人々の生き方に感動するからでは。
ここ「不便」だから、全部自分の手でやれるじゃないですか。 それが何だか嬉しいんです。(「ARIA」1巻 p.27)
主人公の灯里は日常の何気ない出来事にいちいち感動しては「恥ずかしいセリフ禁止!」とツッコミを入れられ、先輩のアリシアさんは何が起きても「あらあらうふふ」で全て流してしまう。しかしそこには、あくせくと忙しい現代人が忘れがちなことが詰まっているような気がします。季節の移り変わりや何気ない出来事、そして一見無駄と思えるようなことにも「素敵」をたくさん見つけてしまう灯里。そんな彼女にとっては世界そのものが奇跡で満ち溢れているかのように映っているみたいですが、ある時アリシアさんより決定的なセリフがこぼれます。
「灯里ちゃんが素敵だから、この世界がみーんな素敵なのよ。」
特別な場所や時間にも素敵なことはたくさんありますけど、実は何でもない日常にこそ「奇跡」は詰まっている。
「見るもの、聞くもの、触れるもの。 この世界がくれる全てのものを楽しむことができれば この火星(ほし)で数多輝く水先案内人の 一番星になることも夢じゃないわよ」
…とは大先輩グランマのお言葉ですが、つい見逃してしまいがちな「日常に潜む美しい瞬間」を精緻で美麗なイラストで描き、それはいつでも、誰にでも発見できるものだということに気づかせてくれる。それが「ARIA」という作品の最大の魅力ではないかと思っています。
Q. 「ARIA」で描いてみたかったことは世界ですか、それともそこで生活する人々の日常でしょうか? A. 日頃、ちょこっとでも自分がいいなと思えることです。
「スローライフ」とか「癒し」という言葉だけではとても説明しきれない魅力がこの作品には溢れています。まして「雰囲気」や「空気」のような、存在感が希薄であるかのような表現を使ってほしくはないなと言うのが本音です。 ARIAとは「コミックでなければ伝えられない」感動に満ちた作品です。 (©マッグガーデン)
で、お約束として
たくさん恥ずかしいことを書いてしまったので、自分に「恥ずかしいセリフ禁止!!」とツッコミを入れておきます。