劇場版「空の境界」を褒めちぎる

劇場版「空の境界」第一章 俯瞰風景

月姫」より前の1998年にwebで公開され、後に講談社ノベルズとして発刊されて売上70万部以上を記録した伝奇小説空の境界(からのきょうかい)。それが全7部作で映画化されると聞いたときは正気かと思いましたが、実際に見てきて印象は180度変わりました。一言で言うと神作品です。4週間で約2万人を動員するなど興行成績も記録的だそうですが、この作品の何が凄いのか簡単にまとめてみます。 

全7部作というこだわり

同じ作品を7回に分けて映画化なんて前例がありませんし、そもそも7回も映画館に行く人はいるの? と思っていたのですが、この作品には人を7回映画館に行かせる力があります(それほどクオリティが高いという事です)。 第一章のパンフレットからufotable社長、近藤さんのインタビューを抜粋します。

まず、この作品は原作準拠で作るべきだと思って、それから原作準拠であることを明確に提示するために、どうやったらわかってもらえるかって考えたんですよ。そしたら、原作が七章だから七部作だ、って頭に浮かんで、これはわかりやすいや、という(笑)。

全7部作で映画化は近藤さんの発案だそうですが、「空の境界」を原作に忠実に映像化するには7部作しかないという考えがまずあったそうです。確かに2時間で収まる作品ではありませんし、1クールでTVアニメ化したとしても月姫のようにちょっと残念な結果に終わる可能性があります。「劇場版で7部作で映像化」空の境界のような重厚な作品には最高の条件と言えるのでは。この方式が今後増えるかもしれないとさえ思いました。

「劇場版」と呼ぶに相応しいクオリティ

ufotableというと「まなびストレート!」や「ニニンがシノブ伝」などTVアニメの制作会社という印象しかなく、映像を見るまでは「劇場版と言ってもTVアニメの延長かな」と思っていたのですが、実際見た映像は京アニ以上でした。緻密に書き込まれた背景や多用される3DCGなど、1カット1カットが細部までもの凄く丁寧に作られています。例えば、老朽化して取り壊し寸前のマンションの質感とか、コーヒーを入れる時やジュースを飲む時の水の動きとか、あるいは大量に血を噴き出して倒れている死体とか。戦闘シーンの躍動感については言うまでもないのですが、何気ない日常のシーンにも一切妥協がありません。 あと蒼崎橙子のオフィスも妙にリアルだなと思っていたら、何とこれは実際にセットを作っていたそうです。

橙子のデスク周りとか室内を、ラフの美術設定を作って、それをもとにまんま再現したの。3か月ぐらいかかったかなあ。小道具屋回って家具買って、大工さん呼んで柱を立ててもらったりしたんだけど(以下略)。

映像だけ見てもその凄さは十分すぎるほど伝わってきますが、スタッフのインタビューの端々にも彼らの「本気」が垣間見えます。

音楽も素晴らしい

BGMは梶浦由記さんですから説明は不要だと思います。第一章のobliviousとか主題歌も雰囲気に合っていて最高です(Kalafinaのサイトで流れてます)。映像的にも凄いですが、BGMや声優さんのキャスティング、演技も言う事無しです。ちなみに黒桐の中の人(鈴村健一)はアニメ版月姫で志貴を演じていた人でもあります。

というわけで

原作を知っている人、TYPE-MOONのファンなら当然見に行っていると思いますが、良く知らない人でも何か凄い作品だというのは分かると思います。主に猟奇殺人を扱うのでTVではとても放送できないような映像も随所に出てきますが、そういうのが平気であればぜひ劇場まで足を運んでみて下さい。2/8(金)まで一章&二章の再上映をしているのでまだ間に合います。全国で新宿と池袋の2館でしかやっていないのは少なすぎなのでもっと上映されるべき、とは思いますが。

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