芦奈野 ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』

コミックで「癒し系」とか「まったり系」と言えば、誰に聞いても真っ先に名前が挙がるのがこの『ヨコハマ買い出し紀行』。 別に買い出しの話でも何でもなく、ヨコハマと言っても現在の横浜ではない。舞台は近未来…だけど、そこに広がるのは50年前のようなのどかな風景。そんなのんびりとした風景の中、1日にお客さんが一人来るかどうか、ってカフェを営むアルファさん。そして仲間たちのほのぼの過ぎる日常を描いた作品です。 当然、大事件とか派手なストーリー展開もなく、ただただゆったりと時間が流れて行くのみ。それだけなのに何かイイ。コマも大きくセリフもほとんどないので、読むだけなら一瞬で読み終わってしまいます。でもそうではなくて、できればゆっくりと時間をかけて味わってもらいたい作品。何かと殺伐としてしまう今の世の中とは正反対の世界が、そこに感じられるはず。 風景の美しさと人の温かさ、そしてゆったりとした時の流れ。そういったものをただひたすら「感じる」、それだけの作品です。それだけなのにとてもイイ。アマゾンに「詩を読んでいるかのような」ってレビューがあったけど、その感覚が近いかもしれない。笑いも涙もありませんが、読めば印象に残る作品ベスト3ぐらいには入るのではないかと。不思議な魅力を持った作品です。