森薫『エマ』

19世紀末、英国ヴィクトリア朝。 身分を超えた恋愛が許されない時代。 自分とは異なる階級の人を好きになってはいけない時代。まして身分も家柄もしっかりした上流階級の人間が、労働者階級であるメイドに恋するなど世間的には全く許されない事。そんな禁じられた恋愛、上流階級とメイド、という身分を超えた恋を描く切ないラブロマンスです。

メイド萌えに非ず

まず最初に断っておくと、これは決してメイド萌えなマンガではない。確かに主人公はメイドさんだが、猫耳も鈴もついてない。目が異常に大きかったり3頭身だったりもしない。 確かに著者は制服好きでメイド好きで「メイドと言えば、美人で無口で眼鏡で照れ屋♪」という4連コンボが炸裂してはいるものの(※著者は女性です)、これは現実にメイドと言う職業があった時代の話。描かれているのは喫茶店で働くメイドさんではなく、住み込みで働いているメイドさんなのです。 特筆すべきは当時の風景をあり得ないほど忠実に再現している(ように見える)こと。当時の風習、服装や食事といった日常生活から、クリスタルパレスなどの巨大建築物まで。まるで実際に見てきたかのようなリアルさです。『エマ・ヴィクトリアンガイド』を読めば、この作品がいかに膨大な量の資料に基づいて描かれているかが分かるはず。圧倒されます(趣味とは言え)。

強いて言えばメイド萌えではなく「19世紀ヴィクトリア朝萌え♪」な作品だと思う。まあそんな人間は世界で著者ぐらいかもしれないが、読めば誰でも少しは興味が出てくるはず。

ストーリー的には…

ラブロマンスとしてのこの作品は「メイドと上流階級(ジェントリ)、禁断の恋」という設定からも分かるように、ほとんど昼メロの世界だ。上品にまとめられているのでドロドロとした話もなく、最後はハッピーエンドだな…という予想もつく。1~2巻を読んだ限りでは「まあ、こんなものか」程度に思っていた。しかし3巻辺りから本格的に話が進み、4巻ではもう…・゚・(ノД`)・゚・。感動しました。関係ないけど、この切なさが『ふたつのスピカ』に通じるのかもしれないな、と思ったり(Amazonでは相関があるので)。 ラブコメではない本格的な恋愛ものを求める人、または切ない話が好きな人には激しくオススメです。