涼宮ハルヒがWeb2.0にされる憂鬱

涼宮ハルヒのWeb2.0的成功要因分析、ウルシステムズITmedia News)

同番組は独立UHF放送局だけで放送されたのだが、一部の熱狂的なファンがブログなどを通じてネット上の口コミ活動を開始し、同時にYouTube上で違法ながらもコンテンツが流通したことで、従来ならリーチできない範囲にまでファン層を拡大した。また、公式Webサイトの制作コンセプトにも独自性があり、この独自性ゆえに、ユーザーが「涼宮ハルヒの憂鬱」関連のコンテンツを生成するというバイラルネットワーク(口コミによるネットワーク)が生じたと中村氏は言う。

…そこ、笑っていいぞ。(©キョン

このコンサルタントの方の講演が微妙だったのか、あるいはこの記事のまとめ方が微妙なのか良く分かりませんが、これを読んだ多くの人は 「お前、Web2.0って言いたいだけちゃうんかと。」 と思ったのでは。この記事は釣りの可能性もありますが、全力で釣られてみます。

ネットは確かに一役買った

YouTubeにEDや本編が違法ながらもUPされたり、あちこちのブログで1話ごとに詳細な分析がされたりなど「涼宮ハルヒ」の普及にネットが一役買った、いや三役ぐらい買ったのは間違いありません。DVDの第1巻(Episode00)限定版の売上は4万8千枚とアニメDVDとしては異例の数字を記録、原作のライトノベル版や関連CDは連日Amazonオリコンの上位を占拠しており、これは誰がどう見ても成功と言えるでしょう。某掲示板でのスレの勢いも尋常ではありませんでしたが、とりあえず「YouTube」とか「ブログ」というキーワードが含まれていれば「Web2.0」になるみたいです。 ではネットが無かったとしたら、あるいはYouTubeやブログが無かったらアニメ版「涼宮ハルヒ」はここまで人気が上昇しなかったのか? と考えるとそれは違う気がします。普及のスピードは若干遅くなったかもしれませんが、確実に「何かとんでもないクオリティのアニメが放送されてるらしい」と話題になったと思います。

公式サイトの独自性

公式Webサイトの制作コンセプトにも独自性が~」とか横文字を羅列されると意味が分からなくなりますが、要は「一見やる気の無い、手抜きとしか思えない素人っぽさ全開のデザイン」ということです。あなた方もよくご存知のはず…(©カグヤ@MUSASHI)。 ではなぜ手抜きに見える作りなのか? それは奇をてらったわけでもネットで話題になる事を狙ったわけでもなく、原作で「HPなど作った事も無い高校生が、ハルヒに命令されて活動内容不明の部活のHPをイヤイヤ作らされた」ことを忠実に再現したためです。この手抜きにしか見えないHPを見て「このアニメは駄作だ」と思った人もいるかもしれませんが、原作既読者としてはこのサイトを見た瞬間に成功を確信しました。さすが京アニ、原作を深く読み込んでそれを忠実に再現しようとしている…と。実際の放送は予想以上のクオリティでさらに度肝を抜かれましたが。

緻密な作り込み

もちろん公式サイトだけではなく、1話ごとにその緻密な作り込みは話題になりましたが、それらもあくまで原作を忠実に再現しようとした結果に過ぎません。「一部の熱狂的なファンがブログなどを通じてネット上の口コミ活動を開始」したのはなぜか? それは例えば長門の読んでいる本が実在の本だったり、長門の書いたプログラムが実際に実行できるものだったり、長門の(以下略)…など、普通では考えられないほど高いレベルで映像化された涼宮ハルヒの世界を分析せずにはいられなかったためです。ちょっと変わった趣向で作ってみました、ぐらいではここまで話題になる事はなかったと思います。例えばぱにぽにだっしゅ!はコネタやパロディがありえない密度で凝縮されてはいましたが、さすがにハルヒほどは話題にならなかった気がします。当時YouTubeはありませんでしたが、ブログは十分に普及していたわけで。 あと、これもYouTube以前の話ですが、ハルヒと同じ京アニAIRは放送局がBS-iということもあり、ネット上では一部の人だけが盛り上がっていたという感じでした。しかし売上は17万枚以上2005年アニメDVD第2位。これはTVアニメなのにまるで劇場版のようなクオリティと、原作の雰囲気を全く損なわずに映像化されたことが原作ファン以外にも高く評価されたためだと思います。

良いものは売れるし、そうでないものは売れない

さて、ところでアニメの人気やDVDの売上UPにYouTubeやブログは必須なのでしょうか。「Web2.0」とかいうバズワードを持ち出さなければ説明できないほどオタクの行動は複雑なのでしょうか。これはこうやって長々と書くまでもなく、多くの人が理解していることです。つまり「良いものは売れるし、そうでないものは売れない」という、ただそれだけの事実。これはWeb2.0だろうが3.0だろうが変わらないことだと思います。そしてモノ作りをしている人は「どうすれば話題になるのか」ではなく「どうして話題になったのか」を考えてほしい。

京都アニメーションという制作会社はなぜここまで作り込むのか、もちろんそこには高い技術力や優れた感性も発揮されているわけですが、それ以前に他ではあり得ないほど原作を尊重するというその姿勢こそ学ぶべき事だと思う。原作を映像化するにあたって必要な要素は何か…をいかに深く考えて制作されているか、それは「ハルヒ」や「AIR」や「ふもっふ」などを見た人なら分かるはず。あの丁寧な仕事ぶりはアニメ関係者でなくとも見習いたい所です。

ところで

ハルヒが話題になってる理由としては、なぜかツンデレハルヒ?)「メガネ」長門?)「メイド」(みくる?)というキーワードも挙げられますが、いずれも的外れで本質的な理由ではないと思います。強いて言うなら、萌え要素があったから人気が出たと言うのであればまず長門有希を挙げるべきではないでしょうか。そしてちゅるやさんハルヒ以前にこの2人は外せない、と強く主張しておきたい。めがっさにょろにょろ。

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