社会学ほどいい加減な学問もない。社会学を学べば学ぶほど「学問って何?」とか「結局、社会学の結論なんて研究者の主観に過ぎないのでは?」などの疑問は増える一方でした。社会学を専攻していた学生の頃から疑問は一向に消えなかったのですが、この本を読んで全てが氷解。ああ、社会学っていい加減だからこそ面白いんだなと。
本書は社会学がいかにおかしな学問であるかを、社会学の方法論を駆使して痛烈に皮肉っています。いわば学問を笑いにまで昇華した本。それでいて、いわゆるマジメな社会学の本よりもずっと社会学的です。全国の大学でテキストとして採用して頂きたいほど。入門書としても最適ではないかと。社会学関係の教授さんや学生さんは必読、そして単純に笑いを求める人はもっと必読です。1500円でこんなに笑える本は本当に久しぶりだ。人前では読めないほど笑ってしまう恐れがあるので注意。
社会学はまず範囲が広い。広いなんてものじゃなくて、家庭から政治まで何でもあり。社会学で扱えないものを探す方が難しいくらい。だから適当な仮説(=社会学的には結論)と、自分にとって都合の良いデータを集めれば立派な社会学です。適当な仮説とは「最近の若者はけしからん」「ゲームが子供をキレやすくしている」とかその程度でOK。統計とかデータも、その結論に当てはまらないものは無理して載せなくても構いませんし。
で、そんなおじさんのぼやきに近いような事が「社会学的に」証明され、世間で一般的な通念として認められている訳です。最近少年犯罪が増えてきた、フリーターはダメだ、学力が低下している、もっと本を読みましょう…などなど。本書はこれらの社会の常識(および社会学の常識)に真っ向から挑戦します。
例えば、この10年で少年犯罪は確かに増えています。増えていますが、平成2年頃に比べれば2倍になったというだけです。実は昭和30~40年頃は平成2年の約7倍。そして無責任だと非難されるフリーターですが、例えば家賃を滞納しているフリーターは独身サラリーマンの3分の1。現在物価が安くなっているのもデフレではなく賃金の安いフリーターのおかげ。他に、読書をしても頭は良くならないし、本が売れなくなったのは高齢者が新聞ばかり読んでいるから…などなど、目から鱗が落ちる話ばかりです。いや、こんなんで鱗落としていいのかという疑問もあるけど、ネタとして書かれている割にはかなり信憑性があります。少なくとも世間でベストセラーになるような「ナントカ脳の恐怖」とか「~シングルの時代」みたいな新書よりは。
正しいか誤っているかはともかく、普段自分たちがいかに偏った常識を信じているか、一方的な価値観に縛られているかを痛感させられます。世間的に認められ立派だとされる事もほとんど根拠のない風習に過ぎなかったり、日本では当然な事も外国人には説明するのさえ困難だったり。特に、日本人はリセットボタンを押さなすぎ、人生は何度でもやり直しができる…という主張はもっともだと思います。
個人的に一番印象的だったのがこの一文。
不謹慎だけどその通りかもしれない、とも思う。日本の自治体も先行き短い老人にバスや地下鉄の無料パスをあげるのはやめて、将来を担う学生にこそあげるべきです。
ネットでも読めますが、大幅に加筆修正された本書の購入を激しくお勧めします。
社会と社会学の常識に縛られたくない人、そんな事どうでもいいからとにかく笑いたい人にオススメ。こんなに面白い本は滅多にないです。しかし著者、どう考えても日本人だよなあ…。