ボウリング・フォー・コロンバイン

なぜアメリカでは銃犯罪で年に1万人以上もの犠牲者が出るのか?
コロンビア高校での銃乱射事件(99年)についての取材をベースに、なぜアメリカでは銃犯罪が減らないのか…という社会問題に挑むドキュメンタリーの秀作。

華氏911」よりも面白かったという人が多いようなので見てみましたが、確かに華氏911と同じくらいかそれ以上に興味深い作品でした。ムーア氏はスゴイ。16日(木)の9時からテレ東で放送するらしいので、興味のある方はぜひ御覧下さい。

アメリカ=銃社会、と多くの人は思っている。それはその通りで、銃を持つことが法律で認められているから銃犯罪が多いのも仕方ないのでは…とも思うだろう。しかしお隣の国カナダも実は銃社会だ。何と1000万世帯に700万挺。…が、銃犯罪はほとんどない。しかも多くの人は泥棒に入られても家に鍵をかけない。

違いは何だろう。アメリカには多様な人種が住んでいるから? もちろんカナダにもいろんな人種の人がいる。ではアメリカが征服と流血の歴史を持つ国だからか? アメリカだけではなく、ドイツもフランスも日本にもそういう時代はあった。では暴力的な映画のせいか? 当然ながら、世界中の若者に暴力的な映画は大人気だ(マトリックスとか)。ではテレビゲーム(以下略)。

もしや音楽のせいか? 実はコロンビア高校の事件の犯人、生徒2人はマリリン・マンソン(ロックバンド)が大好きだったらしく、一部では本当に「マンソンが悪い!」と思われていたらしい。確かに彼は見た目も曲もちょっとクレイジーだけど、ムーアのインタビューに答えるマンソンは驚くほどまともな人で「マンソンは帰れ!」と叫んでいた市民団体の映像とは対照的だった。本当にクレイジーなのはどちらだろう。

アメリカと他の国との最も大きな違いは、不安感とか恐怖心だ(という風に描かれている)。テレビやニュースで常に「いつ何が起こるか分からない」という恐怖心を煽られ、近隣の人でさえ信頼できなくなっている。マスコミだけではなく、そもそも国のエライ人がそういう政策だ。我々の自由を脅かす者に対しては断固戦う!と。しかし実際やってることは関係ない他の国への爆撃。社会福祉よりも軍事防衛。そうして生まれた貧困が、また次の悲劇を生み出している。何か悪循環にはまってしまってるような。

アメリカ人はすぐに戦おうとするからいけないんじゃないかな。僕らなら話し合いで解決することも」とか言ってたカナダの高校生が印象的だった。「憎いヤツがいても殺そうとは思わない」いや当たり前すぎるけど。もし憎いヤツがいたら「卵を投げるね」と。なんてほのぼのしてるんだろう。隣の国なのに…。

国民に潜む恐怖心を描いたのがこの作品なら、国家レベルでの恐怖心を描いたのが華氏911だと思う。個人的にはどちらも面白い…いや興味深い作品だと思います。2つとも深刻なテーマで「面白い」とは不謹慎な表現だけど、2時間見てても飽きないどころかどんどん引き込まれていくドキュメンタリーを作れるのは本当にスゴイ。エンターテイメントとして十分に楽しめ、そして考えさせられる作品だと思います。どちらも。

しかし、銃犯罪で年間1万人の犠牲者が出るアメリカも問題だけど、自殺で年間3万人の犠牲者が出る日本も問題だと思う。ムーア氏に取材してもらったら面白いと思うけど…無理か。