久世番子『暴れん坊本屋さん』

書店経験者として断言します。「これ以上、本屋の仕事を忠実に描いた作品はない」と。

漫画家でもあり、書店員でもある著者のセキララ書店日誌。 書店で起こる日々のいろんな出来事をギャグ漫画風に仕立てた作品…と思うかもしれませんが、中の人からするとここに書いてあることは全て事実です。もうルポルタージュと言っても差し支えないぐらい。 例えば、

「ローマ字で「チミ」という雑誌ありますか?」 「こちらですか!?」(正解:「TIME」

とか、

ハリーポッターの書いたピーターラビットはどこにあるの!?」

など、こういったやり取りは作り話でも「たまにある面白い話」などでもなく、日常茶飯事です。タイトルを正確に覚えていらっしゃるお客様の方が珍しいくらい。それでも「新聞に載ってたアレありますか」よりははるかにマシですが。 毎朝大量に積まれている新刊や雑誌の山。それを開けて並べて、古くなったものや売れないものを返品する毎日。もしかすると「本屋って仕事が楽そう」とか「ずっと本読んでそう」とかお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、本屋さんの仕事は主に肉体労働です。一度に段ボールを2~3箱とか、一度に本を何十冊と持てないようでは仕事が永遠に終わらないのです。 

もちろん商品知識も必須で、上記のように「チミ」と言われてTIMEをすぐに差し出せるようでなくてはなりません。いや分かるだろと思うかもしれませんが、雑誌は毎月のように新創刊したり休刊したりするので、ある程度知識がないと「チミ」がある可能性を否定できないのです。そして、それが出版されていたとしても自分の店に入っているものかどうか、自分のお店で売ってる商品を大体把握しておく必要があります。例えば、マーガリンとか毛染めは他のお店なら売ってるといった具合にです。 その他、

  • 新刊や売れ筋の本はいくら注文しても入って来ない(東京の大きな書店には山積み
  • 荒らされる書棚(特に児童書コーナーは無法地帯
  • 売りたい本と、売れる本は別(店員さんが鬼畜系BLを好きなわけではない)

…などなど、本屋の中の人にとっては「あるあるw」と共感してしまうエピソードばかり。むしろ書店員なら誰もが「これは自分の店の話か!?」と思うのではないでしょうか。もちろん書店経験のない方にとっても、かなりレベルの高いギャグ漫画としてお楽しみ頂けるはず。 「本屋さんが、普段お客様に言いたくても言えないような話」が詰まった作品です。本屋大賞なんかよりコレを読んでほしい書店員さんは少なくないのでは。読めば本屋さんが好きな人も嫌いな人も「ああ、本屋さんも大変なんだな」と多少は分かって頂けるものと思います。売れ筋の本がないのも、売り場が荒れてるのも決して中の人だけの責任ではないのだな…と。例え分かって頂けなくても、笑いだけは保証できますので本屋に興味の無い人もぜひ。 そして書店を愛する全ての人に、この作品を捧げたい。