奈須きのこ『DDD 1』

DDD(1)
DDD(1)

突発的な精神障害

それは人格だけではなく肉体をも変貌させ、身体能力を大幅に向上させる。自己の喪失はまだ軽度、重度の患者はその人間離れした力と強迫観念により、猟奇殺人を繰り返す━━━。

しかしまあ、どうすればこんな死体が並ぶのか。
紐で首をくくる自殺は有名だが、頭そのものを回転させて首を折るなんてのは些(いささ)か力抜きすぎる。頭部を大きな万力で固定し、グギッと捩じ曲げたとしか思えない。

アゴニスト異常症患者。通称「悪魔憑き」と呼ばれる彼らと、「悪魔祓い」をする片腕の青年アリカの物語。

精神だけでなく身体の一部が変形し、超人的な身体能力を得る…という設定はバイオハザードを彷彿とさせます。ただ主人公も「悪魔憑き」であり、月姫Fateのような分かりやすい正義の味方ではないのが奈須きのこ作品としては新鮮。現代という日常で起きる非日常。そんな異形の存在達の物語にもの凄い勢いで引き込まれるはず。上記のようなややグロい内容でも大丈夫な人には是非読んで頂きたい作品です。

圧倒的に面白い!のは言うまでもありませんが、この本の良い所は何と言っても1話当たり100ページ前後で奈須きのこ氏の魅力を味わえること。「空の境界」や「Fate/stay night」と比べると非常に短く、その中にきのこ氏の魅力が凝縮されてるという感じです。TYPE-MOON作品が好きな人なら迷わずと言うか問答無用で買いですが、月姫Fateを知らない人にも気軽に勧められる奈須きのこ入門書」としても最適ではないかと思います。本当はFate面白いよ!」と言いたい所ですが、クリアに最低50時間は掛かるものを簡単にはお勧めできませんし。その点これは文庫2冊分ほどの量で1300円と非常にお手軽です(当社比)。Fate以前にエロゲなんて知らねーよ、という人にも気軽に読んでもらえるかと思います。

ただ残念なのはファウスト連載時の挿絵が収録されていないことと、「講談社BOX」という変わった形で単行本化されてる点。その分安くなってるのかもしれませんが、読んだ後だと「これだけの内容だからしっかりとした装丁で欲しい」と思ってしまいます。

本文には隷書体というちょっとおどろおどろしいフォントが使われていますが、読み進むうちに世界観とマッチしているように感じられる…はず。とにかく物語への求心力は圧倒的。ホラー好きにもミステリ好きにも、そしてラノベ好きにもぜひ読んで頂きたい作品です。