五十嵐大介『リトル・フォレスト』

田舎で暮らすとは何と贅沢なことだろうか。 ストーブで焼くパン。その辺に生えてる野草で朝ご飯。搗きたてのお餅に、砂糖醤油と納豆をからめて食べる納豆餅…。どれも本当に美味しそうで、読んでるだけでお腹が空いてしまいます。 ストーリーは一切無く、取り立てて個性の強いキャラもいません。この作品の主人公は「食」と「生活」。田舎に住む人々の食と生活が淡々と綴られています。しかし、このリアルさは実際に田舎に住む著者だからこそ。とある村の中の小さな集落に流れる時間がそのまま描かれています。 都会に住む人は、お金さえあれば何でも買える…と思いがちです。もちろん食べものも。この村の人たちは買い物に行くのも遠いので、基本的には自給自足。自分で育てて自分で作って食べる、というある意味では不便な生活です。でも、そこにはお金で買えない価値が溢れているように思います。コンビニで好きなものを買って食べるより、その辺の用水路にびっちり生えたクレソンを採ってきて食べる方が、はるかに豊かな生活ではないでしょうか。

何か小森とあっちじゃ話されてる言葉が違うんだよ。方言とかそう言う事じゃなくて。(中略)何もした事がないくせに、何でも知ってるつもりで。他人が作ったものを右から左に移してるだけの人間ほどいばってる。

スローフードスローライフ、つまり地に足をつけて歩くような生き方が何だか羨ましくなってきます。もちろん単なる憧れでは田舎暮らしなんてできないと思いますが。 読むほどにまったりとした気分に浸れます。そしてお腹が空いてしまうはず。田舎でしか味わえない食と生活の素晴らしさに魅せられてしまう作品です。