梅田望夫「ウェブ時代をゆく」

前作ウェブ進化論でネットによる社会の変化を分かりやすく解説した著者ですが、「ではその混迷の時代にどう生きれば良いか」を説いたのが本書です。「ウェブ進化論 実践編」とでも呼ぶべき一冊。ただ現代はウェブに限らず大きく価値観が変わりつつある混沌とした時代なので、ネットに興味のある人もそうでない人にも参考にして頂きたい本だと思いました。

中心となっているのは第四章ロールモデル思考法」でしょうか。要約すると「ある対象(お手本=ロールモデル)に惹かれたとき、自分が何故それに惹かれたのかを徹底的に考えることが自分を発見する事に繋がる」という考え方で、例えば探偵小説が好きだから自分は探偵に興味がある、とは誰でも考えると思いますが「ではなぜ探偵が好きなのか」という所まで細分化して考えるのが著者の言う「ロールモデル思考法」です。そして「好き」を見つけたら面倒な事でも淡々と積み上げて行くこと。そうやって「好きを貫く」ことが競争力に繋がる…というのが本書のかなり大ざっぱな概要です。

「好きを貫く」ことは大抵「生計を立てる」「飯を食う」ことの対義語として考えられてきました。好きなことだけで生きて行けるほど世の中は甘くない、と。それでも人間は好きなことをやっている方が高い能力を発揮でき、それが社会への貢献にも繋がるので可能な限り「好き」を貫いた方が良い…というのが本書および著者の以前からの主張です。もちろん、そのためには戦略(=自分の志向性を明確に意識すること)および勤勉さが重要で、具体例として自分がコンサルタントを始めてから大成するまでを第四章では解説されています。Linuxのリーナス氏やRubyのまつもと氏など、好きを貫いて生計も立てると言うのはまだ「プロ野球選手になる」ぐらいの夢物語ではありますが、そのうち「嫌いな仕事を我慢して生計を立てる」ことが格好悪く感じられる日も来るのかもしれないと思いました。著者の徹底したオプティミズムは時に宗教的とまで揶揄されますが、読後はなぜそこまでこだわるのかが少し分かるような気がします。単なるポジティブシンキングではなく、自分の好き(志向性)をハッキリさせるためには人の足を引っ張っている暇などないのだと。

本書でもう一つ印象に残ったのが「もうひとつの地球」という言葉です。前作の「ウェブ進化論」では「こちら側」「あちら側」というようにリアルとネットを定義していて、「あちら側」は何だかよく分からないけど創られつつある世界という感じでしたが、「もうひとつの地球」という言葉からは「誰もが当然持つべきもう一つの世界」というニュアンスを強く感じます。もはやネットとリアルを分けることすら無意味になりつつあるのかも。実際に今ネットを使いこなしている人はそういう感覚を持っていると思います。もちろんネットがこれからの「ウェブ時代」で大きな武器の一つとなるのは間違いありません。

「高速道路の大渋滞」の先をどう歩くべきか、本書にはそのヒントがたくさん散りばめられているように思います。800円弱の本ですが、個人的には最低でも2,000円以上の価値があると思います。混迷の時代を生き抜く全ての人にお勧めしたい一冊です。