三田紀房『ドラゴン桜』

「勉強が面白くなってきただろ?」

強烈なまでに面白い。青春「東大」合格物語。 ドラマ化の影響であちこちの書店で平積みされていたのを見てたけど、絵がかなりアレなので避けてしまっていた。しかし今さらながら読んでみると想像を絶する面白さ。これを絵だけで敬遠してしまうなんて何と恥ずべきことかと思ったほど。マンガだから読まないという人も同様にもったいない。これは受験生よりもむしろ社会人に読んで頂きたい、教育論であり仕事術、処世術のバイブルだ。 偏差値30の落ちこぼれ高校を再生するためにやってきた弁護士・桜木。その計画は勉強すらやる気のない生徒を東大に合格させること…。と、大学受験がテーマではあるけど中身はスポ根だ。普通の大学すら危うい生徒を1年で徹底的に鍛え上げる。そのメニューは非常に合理的かつ科学的で、説得力に溢れている。「基礎を着実に」とか「出題者の意図を読む」「長期計画より日々のノルマ」などなど。各教科それぞれのコツも満載なので受験生にも役立つはず。 そしてその根底には「ゆとり教育」や「個性を育む教育」へのアンチテーゼがある。 詰め込み教育が悪いのか? 受験や競争が悪いことなのか? と。個性を尊重することも大切だけど、基礎学力(読む力や考える力)をおろそかにしてまで個性は大切にすべきなのか。数字ばかり見るなと言うが現実の社会は全て数字で評価されているのではないか。甲子園などスポーツの競争は良くて受験という名の競争がなぜダメなのか。オンリーワンでいいというが、オンリーワンとは各分野のナンバーワンのことではないのか…と。桜木の語る教育論はどれも鋭く本質を突いていて、溜飲の下がる思いがします(当然それが全てでもないけど)。 「学校の勉強は社会で役に立たない」と言われます。もちろん現実の社会で高校の問題集のような出来事なんて起こり得ません。しかし学校では国語や数学という形を通して基本的な学力、読解力や論理的に考える力を教えているのであって「仕事で微積なんか使わないから学ぶ必要はない」という論理は成り立たないと思います。受験というイベントを通して、問題が起きたときにどう対処するのか…という方法を学んでいると言えるかも。 受験勉強の具体的な方法からコーチング、親子の教育論など。現役受験生はもちろん社会人や学校の先生、お偉いお役人の方々などあらゆる世代、肩書きの人に読んで頂きたい作品です。話に引き込まれるうちに絵も魅力的に見えてくるというか、このぐらい迫力があった方が良いかもぐらいに思えてきます(?)。読めばこれはドラマとか関係なく売れる作品だ、ってことも分かるはず。今さらではあるけど激しくオススメしておきたい。 ところで個性的かつどこかで見たような講師陣ですが、英語の川口先生だけ元ネタが分かりません。何だろう…。